Silk thread|「大好きな家族と慣れ親しんだ場所で前撮りをしたい…」そんな想いに寄り添います。愛知県・岐阜県の和装前撮り【NAZU】

Silk thread

日本着物の原点回帰「絹糸」の魅力

縁

2016年6月、仕事柄、正絹着物を取り扱う私は、友人の「蚕が糸を吐く姿は神秘的」という言葉に興味を持ち、その姿だけを撮影しに、新城の養蚕農家へ訪れました。しかし、なにせ相手は生き物。まだ糸吹きのタイミングではなく、「この様子ではあと三日後くらいかな?」ということで、その日は様子をみただけで帰路に就きました。

蚕

蚕は糸吹きのタイミングになると桑を食べるのをぴたりと止め、天を仰ぎながら、身体がだんだんと黄色っぽく透き通ってきます。そしてこの段階にきた蚕は、体内の水分を最後の一滴出し終えた後、繭作りに入ります。

この話を聞き、蚕の成長の速さとその神秘性に驚いた私は、ぜひ変化するその姿を撮影したいと思い、当初1回で終わらせようと思っていた撮影を、数日置きに5・6回、取材させていただくこととなりました。

正絹着物は、天と地の恩恵から生まれた

蚕から着物へ「原点回帰」奥三河の養蚕農家を尋ねて
白無垢花嫁衣装の白無垢は、小石丸の絹糸から織られています。
肌に吸い付くような肌ざわりの良さとしなやかさがあり、織り成される光沢の美しさは見入ります。
人生の特別な日の婚礼着として、おめでたい柄がふんだんに刺繍された衣装には養蚕農家から始まり、職人たちの思いを感じることができます。

養蚕養蚕の歴史は古く、稲作の伝来と共に始まったとされ、もともと女性の仕事でした。その後、江戸末期から昭和初期にかけ盛んに行われていました。
蚕の生態は謎が多く、大変デリケートで人間の手間をかけて育てなければ自然界では生きていけないとされています。

蚕の仲間は世界中に存在していますが、日本には産業用に品種改良された長丸型の繭(中国と日本原種の交雑種)と、日本原種のピーナッツ型繭が美しい「小石丸」があります。現在も皇居ではこの小石丸が養蚕されています。

養蚕の時期は田植えの時期に始まり、秋に終わりを迎えます。蚕は胡麻の粒ほどの卵からうまれ、桑の葉を食べ続け、四回の脱皮をしながら生後二十五日ほどで繭になる為、かなり早いスピードで成長していきます。
小石丸は、小ぶりで糸も細く、繭一個から二デニールの糸が五百メートルほど取れます。それに比べ、産業用の繭からは、三デニールの糸が千五百メートルほど取れ、小石丸に比べおよそ三倍の違いがあります。
この糸を十本で縒ると三十デニールの一本の糸となるのに対し、小石丸の繭では十五本を縒って三十デニールとなる為、養蚕農家では、小石丸よりも交雑種の繭が好まれました。

しかし、糸が細くしなやかな艶が美しい小石丸は、強度もあり高級品として現在も皇室を始め守り続けられています。

絹糸仕上がった絹糸は、「赤引きの糸」( 自然の恵みから仕上がった清浄な絹糸) として、年に一度もしくは二度、お糸船と呼ばれる神御衣祭で伊勢神宮に奉納され、明治神宮、柏原神社、三河國一之宮砥鹿神社にも奉納されます。奉納された絹糸は神が召す絹織物、和妙御衣になります。
蚕は大変デリケートな為、成長過程で病気にかかったりして立派な繭になる前に力尽きてしまうものがいます。繭を途中まで作り、中で死んでしまた蚕は一級品にはならず、くず繭として真綿になり農家の羽衣の綿などに使われていました。
中には二匹以上の蚕が共同で一つの繭を作る事があり、その繭は大きく「玉繭」と呼ばれ複雑に糸が絡み合っています。
この玉繭は希少ですが、二頭繭の不揃いな糸から生まれる織物の美しさは、一級品とはまた違う良さがあります。

感謝私の家には、貸衣装屋を営んでいた祖父母から譲り受けた着物が沢山あります。祖父母が全て正絹の着物にこだわり、丁寧に取り扱ってきた姿、商品への誇りと尊敬の姿勢は、私の中に強く印象付けられています。
今回、ご縁あって養蚕農家を取材する機会に恵まれ、着物の原点回帰をすることでひとつの世界を知ることができ、祖父母の想いをより深く知られたような気がします。
着付けの先生方には毎回「いい着物だね。こういう本物が着られるお嫁さんは幸せだね。」と、お褒めの言葉をいただきます。この「本物」という言葉にはたくさんの意味があったことを、この取材を通して感じました。

最後に、
突然の見学・取材依頼にも関わらず、快く蚕の成長過程を見せていただき、親切な説明をしていただいた養蚕農家のみなさん、ありがとうございました。

―天と地の恵みに感謝して―
これからも、皆さんの想いと共に、衣装も大切にしながら写真を撮っていきたいと思います。

神秘的な絹の話

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